ZOZOSUIT のバックアップ(No.8)
1月31日にZOZOSUIT配送開始公表から一般消費者からの届いた声がSNS等で挙がらない中、最初の一名が2月6日にinstagramへZOZOSUIT到着写真、2月10日にTシャツとジーンズの商品到着写真をUPしている。この投稿はスタートトゥデイの関連企業、株式会社アラタナの社員アカウントによるもので、身内配布による既成事実工作の可能性を疑う声が挙がっている。
いいね!を押しているのも同社社員アカウントが複数あり、スタートトゥデイの計画的なプレスリリースやインフルエンサーを利用した投稿には「すごい」を多用すること、「ワクワク」等の煽り単語を入れること、「製品がどの様にすごいか詳細説明が無い」ことが共通しており、今回の投稿も同類と見られる。初期注文者すら届かず待ちわびる最中、第一声が身内からの投稿では疑問を持たれるのも致し方ない。
株式会社アラタナ社員アカウントhttps://www.instagram.com/haruyaagematsu/
株式会社アラタナhttps://www.aratana.jp/
ZOZOSUITが公表した発送スケジュールから何度も延期となり話題になっている。延期の理由は多くの予約が入り十分な生産量が用意出来ず、具体的な予定日が連絡出来ない状況であると公表していたが、違う理由であった。後に公開されたインタビュー記事において「予約の数については僕の中では想定内でした。でも生産面で課題があって遅れていて、ご注文頂いた方には大変ご迷惑をおかけしてしまいました。fashionsnap.com1月31日記事」「小さい方や大きい方、特殊な(体型の)方で(計測の)精度誤差が大きかったので、やり直して時間をいただいた。Business Insider Japan2月2日記事」と語っている。
1月31日に配送開始を公表したと同時に予約者に「お届けまで最長6ヶ月又は8ヶ月程度かかる可能性」のお知らせメールが届き、物議を醸している。予約開始直後の注文者ですら「最長6ヶ月かかる可能性」となっており、SNSでは予約者の到着を待ちわびる声と公表内容を不振に思う声が上がっている。
公表スケジュールを紐解く
ZOZOSUITは中国・ASEAN各国生産としており、工業的なリードタイムを考慮すると「11月末に受注を募ること」と「1月末~2月上旬の納期設定」が非常に重要なポイントである。
- 11月下旬から順次発送=11月22日発表時点でZOZOSUITの最終検品・A品の梱包作業に取り掛かっていなければ不可能なスケジュールである。数ヶ月経っても発送されないことからこの時点で最終検品・A品の梱包作業に至っておらず、間に合わないのを分かった上での公表、または発送可否を把握しないまま公表したかのどちらかである。11月末までに受注を募ることが重要であったと推測される。
- 12月5日に送信の1月末~2月上旬の発送予定=本筋の設定納期と推測。11月末に受注を元に工場へ発注し、生産・供給する見込みであったと推測される。
- 12月末に「納期未定」へ切り替え=生産・供給の見通しが立たなくなった時点で即座に切り替え。後に語った「体型毎の採寸精度誤差のやり直し」を判断した為と見られる。
- 11月末=中国春節(旧正月)前の船積み納期オーダー最終リミット時期。同時にベトナム等のASEANで見れば量産資材が揃い仕様も確定、縫製キャパも確保した前提で量産発注、量産工程をスタートすれば1月末~2月船積み納期が見込めるリミット時期である。アパレル企業各社が血眼になって限られた生産キャパを取り合っていた時期である。
- 1月末~2月上旬=中国でアパレル製品を生地や資材を作り込み生産する条件で11月末発注した場合に可能な最短の生産リードタイムに該当。
今年の春節は2月15日~2月21日の7日間。これを挟んだ前後2週間、約一ヶ月間は中国の生産機能が著しく低下する。また、春節明けは稼働率もまばらで不安定な状況が続き、春節前に取り決めたスケジュールから大幅に遅れる傾向にあり、春節前の船積納期に間に合わないとその後の納期が全く読めない状態となる。仮に春節明け早々に量産縫製がスタート出来た場合、配送時期は4月以降が見込まれる。並行して中国春節期間の穴を埋める為にASEAN各国の1月~3月縫製キャパは早々に埋まる傾向にある。
- お届けまで最長6ヶ月又は8ヶ月=ASEANで万枚単位の生地や資材を調達する条件でアパレル製品を発注~日本倉庫着荷まで概ね4~6ヶ月のリードタイムが見込まれる。更に数ヶ月の納期遅れは当たり前に発生する。11月末にASEAN工場へ発注した場合の納期に該当する。ASEAN各国は未だ生地・附属等の資材調達の多くを中国からの仕入れに依存しており、こちらも中国春節の煽りを受ける。ASEAN生産リードタイムが長いこと、納期が不安定な一因となっている。
ZOZOSUIT概要
ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)とはファッションショッピングサイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社スタートトゥデイが2017年11月22日に発表した採寸用ボディースーツのこと。「あなたの身体を瞬時に採寸することのできるボディースーツ」と銘打ち、伸縮センサー内蔵のZOZOSUITを無料配布(配送料200円は別途必要)することを発表した。予約を開始した正午から22時の約10時間で約23万件の注文入り、注目を集めている。
当初は11月下旬から順次発送と発表としていたが発表から間もない12月5日に納期を2月上旬頃発送予定に延期した後、更に2018年1月早々に発送日未定と再延期発表。徴収されていた送料200円が60日間以上の未決済の為に返金され、手元に届くのはいつになるか全く分からない状況となった。同時に11月末から「ZOZOTOWN」にて展開スタートと発表していたプライベートブランド「ZOZO」も延期、年明けてなるべく早いタイミングで開始させるとTwitterで語っていた。
ZOZOSUIT仕様について
2016年6月に出資したニュージーランドのソフトストレッチセンサー等の開発・製造を行うStretchSense社と共同開発したもので、伸縮センサーを内蔵したトップスとボトムスに分かれたスーツで、使い方は上下セットで着用し、スマートフォンアプリに通信接続することで身体の寸法を瞬時に採寸出来ると発表されている。 同時に発表したプライベートブランド「ZOZO」の商品開発に活かす起爆剤ツールとして発表され、前澤社長は「データを元に一人一人にぴったりの服を提供する、世界でも類を見ないファッション企業を目指します」、「無料で世界中に配りまくり、一家に一台の存在にする」と自身のTwitterで語っている。
ZOZOSUITを活かした商品とは?
「究極のフィット感」=ZOZOSUITで得られた採寸データに3Dモデリングシステムと高次機能パターンメイキングを組み合わせて設計したパターン(型紙)データを照らし合わせ、最適なサイズの商品を供給すること。
プライベートブランド「ZOZO」は「「究極のフィット感」を実現する。ユーザーのサイズ選びの悩みを解消し、ネット通販の新たな〝常識〟を作りたい考えだ。」と打ち出している。ZOZOSUITを活用すること以外は大きな公表なく発表と同時に様々な憶測が飛び交っていたが、
実際は2017年7月時点で具体的な情報をリークしている。
プライベートブランド開発に向けての生産管理・品質管理・アシスタントデザイナー・パタンナー等の人材を2017年7月から募集しており、応募の中身は、
- 「最先端の3DによるCADシステムを使用」
- 「3Dモデリングシステムを使用」
- 「高次機能パターンメイキングの開発」
- 「新しい生産の仕組みの開発」
- 「オンデマンド生産を実現してみたい人」
- 「仮想装着シミュレーションによるパターン補正と工業化に経験を生かしたい人」
特に求められるカテゴリーは紳士服とスポーツウェア、シャツ、アンダーウェアに関わる経験がある人としている。
プライベートブランド「ZOZO」で実現を目指す試みとは?
前澤社長は過去にPB商品について「誰でも持っているようなベーシックな商品で、品質と価格のバランスは世界でも最高水準となる」と語っている。
実現を目指す試みの具体的な内容はトヨタ自動車の生産方式に代表されるカンバン方式「ジャストインタイム(必要な物を、必要な時に、必要な量だけ生産する)」をアパレル製造インフラとしての構築、「ZOZO」での実現と捉えられる。求人内容の「新しい生産の仕組みの開発」、「オンデマンド生産を実現してみたい人」はこの為に募集している。
「ZOZO」が目指すジャストインタイム方式は高需要が見込まれる特定のサイズについては一定量の製品を初回生産すると共に生地や附属等の資材類を一定量備蓄し、注文と同時に流れてくる採寸情報をCAD/CAMシステムデータを用いて裁断以降の製造工程に繋げ、必要量だけを供給することである。「ZOZO」はオーダーメイドブランドを謳っているが、その内のパターンオーダーに該当する。あらかじめ用意されたパターン(型紙)があり、採寸データと照合して微修正するのがパターンオーダーである。但し高需要が見込まれる特定のサイズは一定量作り込むとしており、これはオーダーメイドに該当しない。消費者へ疑似的にオーダーメイドを体験させることとなる。
アパレル産業が好調であり投資も活発であった1980年代には幾つかの大手企業が試みてはいたが構築出来ず、アパレルでの大規模なジャストインタイム製造インフラは2018年時点では構築されていない。
昨今はアパレル商品の供給過多、市場価値の低迷、過剰供給品の廃棄が世界中で問題となっている。日本のアパレル産業、特に小売業は商社及びOEM/ODMメーカーへの丸投げ体質が強く、「売れるものを提案して安く作って!納期はこれで!」という言葉の通りの丸投げ依頼だけで机上のMD計画を組み、生地生産、縫製期間、輸送期間等、物理的に必要なリードタイムを無視して発注し、売上計画まで組むことが当たり前となっており、ずさんな仕入調達がまかり通っている。在庫過多や売上不振が起きて当然の環境に一石を投じる試みだと言える。
前澤社長がつぶやいた「zozo」キーワードを紐解く
前澤社長はTwitterでプライベートブランド「zozo」概要のヒント、キーワードをつぶやいており、それを紐解いた詳細は以下の通りである。
- 世界初の試みになると思います。
↓
未だ構築されていないアパレル生産・供給方式をインフラから整備する。 - ICT、IoTをフル活用します。
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「ICT」は情報伝達技術、「IoT」はモノがインターネットとつながる仕組み・技術のこと。ZOZOSUITで入手した採寸情報を参照し、高次機能パターンメイキングで作り上げたパターンデータの中から最適なサイズを抽出、製品在庫情報と照らし合わせ、在庫があれば出荷へ進む。平行してその情報を生産工場のCAMと連動し、製品在庫が無ければ生地裁断以降の生産工程へ繋げる。 - 企画開始から6~7年かかっています。
↓
構想は以前から有ったかもしれないが、公表スケジュールに対し実態が伴わない行き過ぎたプレスリリース、エンドユーザーを過剰に煽るメディア戦略に疑問の声が上がっている。 - 老若男女、広くお楽しみいただけます。
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構想が実現出来れば老若男女だけでなく、人種や国、地域毎に異なる体型特徴も今までより早く高い精度でカバーし、企画のアンマッチを減らすことで海外進出のハードルを下げることが期待でき、海外進出時に迅速なローカライズ商品の供給に繋げられる。あくまで理想通り実現出来ればの話ではあるが、是非実現してほしい。 - 膨大な購入履歴データを参考に分析して作るのではなく、そんな簡単なことではない。
↓
発展途上の技術を採用し、製造・供給インフラの根幹から作り上げる大規模な試みであり、投資である。これ程の投資に踏み切れる体力がある日本のアパレル企業は数える程しかない。
ZOZOSUITとプライベートブランド「ZOZO」開発に向けての投資
プレスリリース内容にまだ実態が伴っていないが、開発する為の設備導入には惜しみなく投資をしている。開発人材の登用と同時に最新鋭のCAD、3Dモデリングシステム、高次機能パターンメイキングシステムを複数台導入し、最新鋭工業ミシン、縫製設備まで調達している。但し、お金で物を揃えられるがその道具を扱える人材と管理できる人材が十分に確保出来ず、満足に可動出来ていない。2018年2月現在でも幾つかの職種で求人を出している。
- パタンナー不足 高次機能パターンメイキングは2000年代以降の最近になって開発が進み始めた技術の為、取り扱い経験者自体がごく少数である。
- 縫製ライン管理者不在 日本国内の縫製業は依然から衰退産業であり、新しい人材は育っていない。日本国内の縫製ライン管理経験者の殆どが高齢の工場長兼社長もしくは家業を継ぐ為に務めている後継者で占めており、人材の流動性が無い。
- 縫製工員不足 日本国内の縫製工員はおばあちゃん、パートのおばちゃん、アジア人研修生が殆どである。スタートトゥデイが求める様な最新鋭設備を理解して扱える即戦力人材は稀である。
公開情報から読み取れる疑問点・不安材料(継続編集中
- ZOZOSUITで設けられた大きな購入障壁。ZOZOSUITを着なければ「ZOZO」は買えない
eコマースの最大の利点はインターネットが繋がれば思い立った時に商品を探せ、いつでもどこでも注文出来ることである。では「ZOZO」の商品はどうなのか?
「この商品はZOZOSUITによる計測が必要です。」「計測後最短で翌日お届け」とされており、いつでも注文できる大きな利点を無くしている。わざわざZOZOSUITを取り寄せて着用し、スマートフォンアプリで採寸情報を吸い上げ、登録してからでないと買えないのである。何となく巡回して商品に辿り着いた消費者にとっては面倒なことこの上なく、確実に購入意欲は削がれる。直ぐに買いたい消費者にとっては購入対象から外される。eコマースで積極的にアパレルを購入する客層は店頭に行く手間を省いて手軽にファッションを楽しみたい傾向が強く、このままでは消費者ニーズに合わない販売手法となっている。
現時点はZOZOSUIT初回無料となっており予約注文した積極的なユーザーは顧客に取り込みやすいが、初期導入期が過ぎた後、関心が薄い後期追随者を取り込むにはあまりに高過ぎる障壁である。ZOZOSUITが3000円で購入となれば尚更で、1200円のTシャツを買うのに余分に3000円が必要、しかも目的の商品は直ぐに買えないのでは見向きもされない。ZOZOSUITの初期配布が終わり「ZOZO」商品ラインナップが充実する頃には機会損失を回避する新たな販売手法や初回優遇値引き等が打ち出され、ZOZOSUITを長期に渡って実質無料配布することが予測される。 - 「ZOZO」第1弾商品内容の危うさ
プライベートブランド「ZOZO」第1弾はメンズとレディースのジーンズと半袖Tシャツの展開となっている。アイテムと素材の特徴を見ると一部に「ZOZO」のコンセプト、最大の利点をほぼ潰す選定が見られ、肝心の製品企画が追いついていない様が表れている。- ジーンズ=通販でのボトムス購入障壁であった「裾上げの煩わしさ」、「ジャストサイズ選びの難しさ」の解消を提供できる。エンドユーザーに広く試して貰える分かりやすい提案である。
- 半袖Tシャツ=使用素材が伸縮する上、体型差による袖周辺の調整もさほど求められない為、採寸精度やミリ単位の調整をほぼ必要としないアイテムである。ニット素材は生地自体が伸縮・変形する為、裁断時に数ミリのズレが生じる。縫製時にも縫い伸び、伸縮滑りが必ず生じ数ミリずれる。更に縫い上がった後も変形する。型紙をミリ単位のグレーディングで何千パターン作っても縫い上がりで完璧なミリ単位調整の具現化は実質不可能で、何千パターンも作成すること、そこまで細分化して生産すること自体が大きな労力ロスである。
ニット素材の特性、カットソー製造時に生じる症状と「ZOZO」製造スキームの利点を理解して照らし合わせれば、おのずと別のアイテムを選ぶか何千パターンも過剰な数を作る発想には至らないはずである。 - ZOZOSUITの利点と「ZOZO」の特徴を潰す素材選定
Tシャツ拡大写真から生地は天竺だと確認出来る。メンズTシャツの綿40番手双糸の天竺はTシャツの定番素材で「ZOZO」コンセプト、製造スキームに合った糸の選定であるが、レディースTシャツの綿20番手単糸の天竺は「ZOZO」の利点を完全に潰す選定である。その上、レディースにおいて綿20番手単糸の生地というのは中肉で目面が粗くカジュアル感が強い部類とされ、一般にもっと細番手の糸及び双糸が使われる。20/-天竺は主にメンズ向けの生地である。
綿双糸=縮み・斜行・変形が抑制され、安定性のある目面が整った糸。糸が引き締まっており、適度なハリ・コシが有る。
綿単糸=縮みやすく、生地を編み上げている最中から斜行変形が伴う。着用、洗濯の度に糸自体の伸縮と斜行運動が繰り返され、生地が変形する。糸自体に膨らみが有り、ソフトで粗野な風合い。
*糸番手、双糸、単糸の詳細はそれぞれの辞典ページにて解説有り。
綿単糸の特徴からどれだけ正確に製品を作っても縮み変形する為、ZOZOSUITの採寸情報からジャストサイズを選んでも数回の着用、洗濯でその状態が維持出来なくなる。何千パターンも型紙を作っても具現化精度が低く、製品のサイズ維持が続かない素材の為、意味が無い。レディースで拡販するには避けるべき素材であり、「ZOZO」としても避けるべき素材である。何故メンズ・レディース共に40/2天竺に統一しなかったのか?せめてメンズに20/-天竺、レディースに40/2天竺を設定するべきでは?この企画には首を傾げるしかない。アパレル製品は目的とするプロダクトに生地クオリティが合っていなければ生産効率と商品クオリティが著しく低下する。
現状のスタートトゥデイは仕組みの打ち出しとメディア戦略が過剰先行し、実際の製品企画・製造が取り残されているのを表している商品である。
- ジーンズ=通販でのボトムス購入障壁であった「裾上げの煩わしさ」、「ジャストサイズ選びの難しさ」の解消を提供できる。エンドユーザーに広く試して貰える分かりやすい提案である。
- 実務を行う工員が生産システムを理解・対応できるのか?人材の方が付いていけない?
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